獣医にライナーノーツ? 宮田のエッセイ館

ライナーノーツ
獣医にライナーノーツ?

 今年(平成28年)の1月、私は6つの団体の賀詞交換会に出席した。6つとも昨年と同じ団体で、会場も6つの団体がそれぞれ昨年と同じ場所だった。私が着ていった背広も昨年と同じだった。

 昨年とほとんど変わらない賀詞交換会の6回シリーズにあって、持参した私の名刺のデザインだけが、昨年までのものと違っていた。

 賀詞交換会の宴席で、新しい名刺は重宝した。毎年多くの人と名刺交換をしていると、目の前の人がすでに名刺交換をした相手かどうか忘れてしまうことがある。そういう時、相手に失礼な感じを与えずに、「名刺を新しくデザインしました」と言って、私は名刺を差し出すことが出来たのだ。

 名刺をもらった相手は、自身の名刺を私に差し出す。相手が、私と名刺交換をしたかどうか忘れていたとしたら互いに都合が良い。相手は、『お返しに自分の名刺を渡す』というポーズがとれるからだ。

 新しい名刺は、私の氏名などが地味な黒文字で並ぶ中、新しい肩書の『宮田のエッセイ館館長』が青色で目立つように印刷されている。賀詞交換会の宴席で私の名刺を受け取った相手は、名刺をしげしげと見つめて、

「宮田のエッセイ館とは・・・?」と尋ねてくる。

「私が書いたエッセイを掲載しているウェブサイトです」

 説明を受けた相手は、自身のポケットからスマートフォンを取り出して、その場でサイトを開いてくれる場合がある。相手は指先でページを大きくしたり、別のページを見たりして、「ブックマークをつけて、後で見ます」と言ってくれる。読者が一人でも増えるのは嬉しい。読者になってくれた人が、私の電子書籍を買ってくれたら最高に嬉しい。たまに「このサイトを拡散させて良いですか」と聞いてくる人がいるけど、遠慮せずにドシドシ拡散させてもらいたい。

 名刺交換の直後に多かった質問は、「どういうエッセイを書いているのですか」であった。返答に困る質問だった。このサイトの熱心な読者はお分かりと思うが、真面目な話から妄想ババアまで内容が多岐に渡たるため、エッセイの内容を簡単に言い表せないのだ。エッセイのジャンルを聞いているのだとしても、決まったジャンルが無いので困った。結局、「読めば分かります」と不人情な返答しか出来なかった。

 すでに新しい名刺を渡してこのサイトを紹介してあった人達と、賀詞交換会で再会する機会があった。私はそういう人達との再会に、エッセイの感想を聞けるかもしれないという淡い期待を抱いて臨んだのだが、私の期待は脆くも崩れた。

 開業獣医師が書いたエッセイと聞けば、

『飼い主や動物との交流を、自分の動物病院の宣伝のために書いたもの』

『およそ想像がつく文体で命の尊さを訴えている』

 などの予断が働いて、最初から読む気がしない人は少なからずいるだろう。実は、私もこのような予断を抱く一人だ。読む気がしない人の気持はよく分かる。私が名刺を受け取る立場だったら、獣医が書くエッセイの内容について「どうせ・・・」と思うに違いない。

 こんなことがあった。レ・フレール(兄弟のピアノ・デュオ)の兄・斎藤守也さんが、彼のソロ・アルバム『旅』をリリースに向けて準備している時だった。

「ライナーノーツは誰に頼むの?」

 事務所のスタッフが守也さんに聞いた。ライナーノーツとは、CD付属の小冊子に書かれた解説に類する文章である。守也さんは答えた。

「私の飼い犬を診ていた獣医さんに頼むつもりです」

 これを聞いたスタッフ3人は、目が点になってボー然と立ち尽くした。スタッフからようやく出てきた言葉が

「獣医にライナーノーツ?大丈夫なの」

 であった。スタッフの心配は当然だろう。

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