泣き捨て地蔵 5 宮田のエッセイ館

泣き捨て地蔵
泣き捨て地蔵 5

 私の家にお地蔵さんは無い。右隣の伸ちゃんの家にも、左隣のあっこちゃんの家にもお地蔵さんは無い。お地蔵さんがどこに居て泣いているのかとても気になった。

 墓参りで寺に行った時、本堂の近くに何体もお地蔵さんが並んでいた。私はこれらのお地蔵さんを隈なく見た。私は祖母に、泣くお地蔵さんの絵を描いてもらったことがある。

「おばあちゃんは絵が下手だから」

 と照れくさそうに言って描いてくれた。特徴は縦に大きく欠けた片方の頬。寺のお地蔵さんは石の目が粗く、頬にゴツゴツした隙間の空いたものはあったが、祖母の絵とは違った。どのお地蔵さんを見ても涙が無かった。

 お寺は広い。建物も古くて大きい。祖母が住んでいた家もそうだった。だから、お寺にあのお地蔵さんがありそうなのだ。お寺の建物の裏にあるかも知れない。お寺は自分の家から遠い。泣き声は届かない気がするし、風に乗ってやって来る気もする。近所の知らない家にあるお地蔵さんが泣いているのだろうか、と私はさまざまに思った。

 

「泣き捨て地蔵って、家の者は呼んでた」

 

「泣き顔のお地蔵さんが、捨てられたようにあったから・・・そう呼んだども」

 

「名前の訳は、もう一つあってな・・・」

 

「本家というのは、分家から悩み事が持ち寄られるところでな・・・」

 

「分家の人の涙が集まって来るところでな」

 

「本家の家長は分家の悲しみを一身に受けるのさ・・・泣き捨てられた悲しみをな」

 

「家長は心が疲れるのさ・・・」

 

「家長は自分に集まった涙をお地蔵さんに渡すんだ」

 

「泣き捨てられた涙を供養してもらうんだ」

 

「だから泣き捨て地蔵って呼ぶ訳があんだ」

 

「お地蔵さんは涙を供養する時にな・・・シクシク、シクシクって泣くんだ・・・風の音に紛れてな・・・雨の音に紛れてな・・・虫の声に紛れてな・・・」 (了)

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