神奈川県獣医師会 理事就任の挨拶 1 宮田のエッセイ館

解決した心の問題
神奈川県獣医師会 理事就任の挨拶 1

 

              神奈川県獣医師会理事就任の挨拶

 

                               横須賀三浦支部 宮田和彦

 

 昔々、我々が小さな哺乳動物だった頃、強い敵に狙われた我々は地面を這い必死で逃げた。何匹かの同胞が食われれば、敵の襲撃は止み多くの同胞が生き延びた。長い間繰り返された生存競争がDNAを育み、受け継がれていく。私はこの世をオドオド生きる自分の内に、育んできたそのDNAを感じる。

 

 昔、人間は人智を超えた天変地異に遭遇し仲間が死んでいく様を見てきた。神の怒りが人間の命を求めたのだ。機嫌を損ねはじめた神を鎮めるために、時の為政者たちは先手を打ってきた。生贄である。少数の犠牲で多数が助かる。神に捧げられた生贄によって民衆は安心を得てきた。私はこの世をオドオド生きる自分の内に、生贄を求めてきた民衆を感じる。

 

 現在、我々は神に供え物をして願いを叶えようとする。

 

 ペットブームは、人間の地位まで引き上げられた動物を巷に増やす。相対的に人間の地位を下げ、動物以下の人間が増して生贄や生贄予備軍の人間が増える。これは私が犬一匹をみた時の憂慮でなく、社会全体をみた時の憂慮だ。我々は肥った犬を抱くが、餓死する心優しき母子を抱きしめないだろう。

 私は自分の動物病院で、犬を「この子」でなく「この犬」と呼び、雌を「女の子」でなく「メス」と呼び、「おてて」でなく「前足」と呼ぶ。この世で生贄となった人へのせめてもの供養のつもりだ。 

 不肖宮田、理事になりました。よろしくお願いいたします。

 

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