賀詞交換会 6 宮田のエッセイ館

賀詞交換会
賀詞交換会 6

 私は保健所長K氏がいるテーブルから、ビールが入ったグラスを持って別のテーブルに移動した。

 賀詞交換会に今年初めて出席した今津直記さんが、二人の男性と談笑しているテーブルがあった。今津さんは、福岡県の家畜診療センター所長として大動物の診療に携わっていたが、昨年定年退職し、横須賀市に移り住んだ。横須賀に来て間がなく、この宴席に顔見知りがいなくても、この二人となら共通の話題があって会話が進むだろう、と私は思っていた。

 二人はそれぞれ酪農業を営んでいる。一人は関口さん。彼は、関口牧場ブランドのソフトクリーム屋さんを次々にオープンさせている。もう一人は、三浦半島酪農組合連合会会長の石井さん。賀詞交換会を主催する横須賀三浦獣医師会は、開業会員全員が小動物だけを診ている。同じ獣医師でも、小動物臨床と大動物臨床とでは会話の歯車が合いにくいものなのだ。

 私は、牛を話題にして会話に加わるつもりだった。ところが、私がテーブルに付くなり、

「さっきの、散骨の話ですけど」

 と、矢継ぎ早に三人から質問をうけた。

 冒頭の挨拶で、私は狂犬病の話をした後、続いて散骨の話をしていた。昨年、私は家族の遺骨を海に撒いたので、その時の模様を話していたのだ。

 私は三人の反応を見て安心した。実は、賀詞交換会の挨拶で散骨の話をしていいものか不安だったのだ。「明けましておめでとうございます」と言った後に、死んだ家族の骨の話、しかも、それを海に撒いた話をするのである。

 また、散骨の話は実話であるが、『私の文芸小作品の朗読』という側面もあった。自分が言葉を選んで情景を綴り、行間に静かな感情を込めた。この日の来賓は、公人としては三浦市長の吉田英男氏、県会議員の竹内英明氏に出席していただいた。他にも、肩書を持ち人生経験を積んだ来賓の方々がいた。

 つまり見方を変えれば、私の作品の朗読を、三浦市長や県会議員やその他の来賓の方々に、立たせたまま聞かせるという、不遜な行為をしていたのである。この日、横須賀市長の吉田雄人氏は宴席の途中から出席され、代議士の小泉進次郎氏は欠席されて代わりに秘書が挨拶をしていた。この御二人も、時間が合えば、横須賀三浦獣医師会の賀詞交換会に冒頭から出席していただける方々である。不遜ながら、私はこの御二人にも聞いてもらいたかった。

 散骨の話は次の通りである。

 

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