兄の死   12 宮田のエッセイ館

失敗
兄の死   12

 私が7歳の頃、この家の中で母が「殺してやる」と兄に包丁を向けた。「今度こそ刺して」と私は願った。しかし、母は兄を刺す前に包丁を下げた。その時、もしも大人並みの体力を付与され、なおかつ兄が今持っているような角材を握っていたとしたら、7歳の私は、角材を迷うことなく兄に振り下ろしていただろう。「こうするんだよ、こうすれば家は静かになるんだよ」と母に言いながら。幼い私にとって、家族喧嘩を起こさないようにする方法はそれしかなかった。

 今、私は兄に対する怒りを耐えるために、心の中で凶器を握りしめている。子供の頃には無かった心の構造だ。

 凶器を握りしめる力の成分は主に理性だが、理性だけでは賄えない強い力だ。その強い力で、凶器が相手に向かって暴発しないように押さえている。理性に狂気が混ざった強い力で押さえている。

 

 

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