妄想ババア 1 宮田のエッセイ館

妄想ババア
妄想ババア 1

 今年もまた、例の贈り物が私の動物病院に届けられた。最初に届いたのは今(平成27年)から4年前。その後、年に1~2回のペースでコンスタントに届くようになったものだ。今でこそニヤニヤ笑いながら、

「あー、またアレが届いた」

 と言えるほど慣れっこになったものの、最初は荷物の扱いに相当難儀したのだ。

 あれは真夏に突然飛び込んできたミステリーであった。宅配便屋さんが私の動物病院のカウンターにドンと大きな荷物を置いていったのが始まりだった。荷物にはお中元ののし紙が飾られていた。私がこれまで頂いたお中元のなかで、最も大きく最も重い物である。中身は500mlの缶ビール4ダースとウイスキー2本。荷物に貼られた伝票には、依頼人のところに私が知らない女性の名前があった。

 これだけの物を貰うのであれば、相手の名前にピンときても良さそうなのに、私は首をいくら捻っても依頼人が誰だか分からないのだ。動物病院のカルテを調べても該当する名前はなかった。事態は謎に包まれた。いたずら? 新手の詐欺? 毒入り? さまざまな疑念が胸に渦巻き、私は気味が悪くなった。とりあえず荷物を棚において、どうしたものかと一晩考えた。

 私は酒が好きなので、好きな分だけ余計に用心する気持ちが働いた。若い頃の私ならば、その日のうちに荷物を解いて缶ビールを冷蔵庫で冷やしていただろう。我ながら大人になったものだ、と思った。ただ程怖いものは無いのだ。

 翌日、お中元の荷物は昨日と同じたたずまいで棚にあった。一晩考えても依頼人の正体に思い至らない。私が荷物に向かってすることと言えば、首を捻りながら見つめるだけであった。

 解決の糸口は、荷物の伝票に記載された商店である。正体不明の依頼人が、缶ビールとウイスキーを購入し、それらにお中元ののし紙を貼って発送したであろう商店だ。商品を扱った店員さんの記憶が、まだ新しい内に証言を得ようと思った。

 私は伝票に記された商店に足を運び、こちらの事情を丁寧に説明し、荷物の注文を受けた時の状況を聞いてみた。

 商店の店員は、その商品を扱った時の状況をよく覚えていた。依頼人は70歳くらいの女性だった。その女性は発送先(つまり私宛)に手紙を書くと言っていて、そのためのハガキを手に持っていた、と店員さんは教えてくれた。荷物は店員さんがお店の商品を直接梱包したということなので、毒入りの疑念は解消した。また、荷物から怪しい煙が漂ってきたり、中から不気味な音が聞こえてきたりする心配はなさそうであった。

 翌日、くだんのハガキが届いた。差出人の住所氏名は荷物の依頼人と同一であった。ハガキに書かれた内容は、要約すると以下の通りである。

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