賀詞交換会 1 宮田のエッセイ館

賀詞交換会
賀詞交換会 1

 賀詞交換会の席で、ビールを手にした横須賀市の保健所長K氏が私に聞いた。

「宮田さんは、どうして保健所を辞めたの?」

 今から約30年前、私は横須賀市の保健所に2年間だけ勤めた経験がある。現在、私は仕事の関係で横須賀市の保健所にたまに顔を出す。仕事上でK氏と言葉のやり取りはあったが、個人的な会話は初めてと言っても良かった。すでに何杯かビールを飲んでいた私は、スラスラと正直に答えた。

「あのまま勤めていたら、ダメ人生になりそうだったからです」

「あれれれ・・・」

 と言いながら、K氏は、阿波おどりのように頭上で両手を揺らし、膝が折れてヨロヨロと倒れかかった。この会席は立食スタイルだった。一度は態勢を持ち直したK氏であったが、

「あれれれ・・・」

 と、再び倒れかかった。K氏は、私がかつて保健所に勤務していた事実を知って、会話の糸口として聞いたに過ぎなかったのだろう。

 昔の私は、このような質問があった時、保健所を辞めた当時の心境を、

「農業的な生活がしたかったからです」

 と答えていた。すると多くの場合、「農業的な生活って、どんな?」と質問が続き、

「南アジアで農業や植林活動を行うオイスカという団体があって、私は、そこに入って・・・」

 と、私の答えは続くのである。そうすると、オイスカという聞きなれない団体について、質問攻めに合うことがあり、私は、何度も同じ説明をするのに飽きていた。それ故、私はこの件に関する質問に対して、

「保健所がつまらなかったから」

 と答えることが多くなった。このように答えると、まず決まって質問者は二の句を継げず、この件に関する会話は終息し、私はホッとしていた。

 しかし、賀詞交換会は会話をするのが目的である。だから、私は会話がどのようにも発展する人生について話題を振る意味で「ダメ人生になりそう・・・」と答えたのだ。誤解しないでもらいたいのは、私は、横須賀市の保健所に勤めている人がダメ人生を送っている、と言っていない。あくまでも私の価値観で、私自身の人生を評価した場合を言っているのだ。

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